3行まとめ
- 健康な18〜35歳の男女13人(男性7人・女性6人)が、「一晩まったく眠らない(断眠)」と「自宅で22時〜7時にふつうに眠る」の両方を、4週間以上空けてランダムな順番で行い、翌日の筋肉とホルモンを比べた(クロスオーバー試験)。
- 断眠のあとは、食後の筋タンパク合成(太ももの筋肉で測定)が18%低かった(0.072 → 0.059%/時、p = .040)。日中のコルチゾールは21%高く、テストステロンは24%低かった(曲線下面積で比較)。
- 一方、筋肉の分解に関わる遺伝子の発現、IGF-1、インスリンには差がなかった。男性は全員で筋タンパク合成が下がったが女性ではそうではなく、性差の可能性もあるが、人数が少なく確定的ではない。
日本語要約
目的
慢性的な睡眠不足は筋量や筋機能の低下と結びついているが、そのしくみはよくわかっていない。一晩の完全な断眠だけで、筋タンパク合成が下がり、同化(体をつくる方向)に不利で異化(分解する方向)に傾いたホルモン環境になるかを、若く健康な男女で調べた。
方法
18〜35歳の健康な学生13人(男性7人:平均22歳・71.6kg、女性6人:平均20歳・60.1kg)。ふだん7時間以上眠り、交代勤務や睡眠障害のない人が対象。ランダム化クロスオーバー試験で、断眠条件(DEP)は21時から研究室で起き続け、対照条件(CON)は自宅で22時〜7時に睡眠。試験前48時間は激しい運動・アルコール・カフェインを禁止。翌日はどちらも7時30分に朝食(タンパク質約20g)、12時に昼食(タンパク質約21g)をとり、10時から安定同位体(L-[ring-¹³C₆]-フェニルアラニン)を点滴し、13時と15時に外側広筋(太もも)から筋生検をして食後の筋タンパク合成(FSR)を測った。血液でテストステロン・コルチゾール・IGF-1・インスリンを、13時の筋サンプルで時計遺伝子と筋分解マーカーの遺伝子発現を測った。睡眠はアクチグラフ(活動量計)で記録。
結果
断眠条件では、介入の夜も測定日も誰も眠らなかった(0.0時間)。食後の筋タンパク合成(FSR)は、CON 0.072 ± 0.015%/時に対してDEP 0.059 ± 0.014%/時で18%低かった(p = .040)。テストステロンの曲線下面積(AUC)はDEPで24%低く(6.40 → 4.86 AU、p = .029)、男性は全員が低下した。コルチゾールは、起床時(7時)はCONのほうが高かったが、16時にはDEPのほうが高く、10時〜16時のAUCはDEPで21%高かった(186 → 226 AU、本文ではp = .011)。IGF-1、インスリン、筋肉のIGF-1 mRNA、時計遺伝子(ARNTL・CRY1・PER1)、筋分解マーカー(atrogin-1・MuRF1・FOXO1・FOXO3)には差がなかった。
限界
参加者は13人と少なく、測ったのは一晩の完全な断眠の翌日だけの急性の変化で、筋量や筋力が実際に減るかは調べていない。「睡眠を数時間に削る」短時間睡眠ではなく「一睡もしない」条件である。断眠中は果物や野菜などの軽食を自由にとってよかったため、夜間の炭水化物がホルモン値に影響した可能性を著者自身が挙げている。対照条件は自宅での睡眠で夜間の採血はできず、試験前の週は参加者が軽い睡眠不足(平均約6時間)だった。性差は統計的に検定しておらず、確定的ではない。運動(筋トレ)をしたあとの筋タンパク合成は調べていない。
要約は運営者が論文を読んでまとめたものです。正確な内容は原文をご確認ください。
筋トレしている人への活かし方
一晩まったく眠らないだけで、翌日の食事に対する筋肉の反応(筋タンパク合成)が18%鈍くなりました。食事のタンパク質は同じ量とっていても、です。「寝なくても筋肉は育つ」とは言いにくい結果で、筋肉をつけたいなら、まず睡眠を削らないことが土台になります。
ただしこれは「一睡もしない」翌日の急性の変化で、筋量や筋力が減るところまでは測っていません。たまの徹夜で筋肉が落ちると心配しすぎる必要はありませんが、睡眠不足が続くと、この小さな不利が毎日積み重なると著者らは考えています(5晩続けて4時間睡眠でも筋タンパク合成が下がったという別の研究も紹介されています)。
どうしても眠れなかった日は、無理に追い込むより、ふだんどおりタンパク質をとり、その夜にしっかり眠って取り戻すのが現実的です。著者らも、睡眠不足の人の筋肉を守る方法として、栄養やタンパク合成を刺激する運動の研究が必要だと述べています。
寝室を暗く静かにすることは、睡眠を確保する手軽な工夫です。眠れない状態が続く、いびきや日中の強い眠気がある場合は、自己流で済ませず医療機関に相談してください。
これは運営者の個人的な読み方で、医療的な助言ではありません。
本文の日本語訳
以下は原論文の本文(抄録・参考文献を除く)の日本語訳です。図は原文へのリンクにしています。( )内は原文の参考文献(著者名, 年)です。計算式とプライマー配列の表は省略し、要点を訳注で示しています。
訳者注:原文の中には、いくつか食い違いがあります。(1) コルチゾールの曲線下面積の差のp値は、抄録では p = .030、本文の結果では p = .011 と書かれています。(2) 図3bの説明文は「血漿コルチゾール濃度の曲線下面積」となっていますが、図3はテストステロンの図で、結果の本文ではテストステロンのAUCとして説明されています。(3) テストステロンの低下は、抄録と本文では24%、2020年に公開された査読前の版の抄録では22%となっています。本訳では掲載版の本文の記述をそのまま訳しています。
何時間寝ればいいか・睡眠負債と回復の関係は睡眠の話、筋トレの休み方は休養日の取り方、1日に必要なたんぱく質量はたんぱく質 必要量計算で確認できます。
はじめに
急性・慢性の睡眠不足は、さまざまな身体的・心理的な悪影響と結びついている(Kecklund & Axelsson, 2016)。完全な断眠(まったく眠らないこと)は単純な認知機能も複雑な認知機能もすぐに妨げる一方、睡眠制限(睡眠時間を短くすること)は全身の恒常性(体の状態を一定に保つしくみ)を乱し、短期的にも長期的にも望ましくない代謝への影響をもたらす(Reutrakul & Van Cauter, 2018)。肝臓(Shigiyama et al., 2018)、脂肪組織(Wilms et al., 2019)、骨格筋など、代謝に関わる組織のほとんどが、睡眠不足にともなう悪影響を受けるおそれがある。
骨格筋は、ヒトの代謝を主に調節する組織である。断眠(Cedernaes et al., 2015, 2018)や睡眠制限(Harfmann et al., 2015)は、遺伝子の調節やエネルギー基質の代謝を変えることで、筋肉の健康に大きく影響しうる。比較的短い期間(1週間未満)の睡眠制限でも、糖代謝が損なわれ、インスリン感受性が下がり、筋機能が低下しうる(Bescos et al., 2018; Buxton et al., 2010)。骨格筋は80%がタンパク質でできており、筋タンパク質の代謝を最適に保つことも筋肉の健康にとって同じく重要である。筋タンパク合成が筋タンパク分解を慢性的に下回る状況では、筋量の減少は避けられない。筋量が少ないことは、神経筋疾患、サルコペニア(加齢による筋肉の減少)とフレイル(虚弱)、肥満、2型糖尿病など、さまざまな慢性疾患の特徴であり、その前段階でもある(Russell, 2010)。集団を対象にした研究では、断眠、睡眠制限、昼夜逆転の睡眠・覚醒サイクルをふだんから経験している人では、これらの病気になるリスクが15〜30%高いと報告されている(Kowall et al., 2016; Lucassen et al., 2017; Wu et al., 2014)。こうしたことから、睡眠不足が筋タンパク質の代謝に直接影響しうることを示す証拠が増えている(Aisbett et al., 2017; Monico-Neto et al., 2013; Saner et al., 2020)。
完全な断眠と筋タンパク質代謝の乱れのあいだに因果関係がありうることを最初に示したのは、げっ歯類の研究だった。レム睡眠を制限する「逆説睡眠の断眠」を96時間行ったラットでは、筋量(Dattilo et al., 2012)と筋線維の断面積(de Sa et al., 2016)が減少した。このモデルでは、断眠がタンパク合成を調節する経路に悪影響を与え、筋肉のタンパク分解の活性を高めた(de Sa et al., 2016)。これと並行して、健康な若い男性で一晩の完全な断眠のあと、骨格筋に異化(体を分解する方向)の遺伝子パターンが見られたというヒトの研究もある(Cedernaes et al., 2018)。この急性モデルを広げるかたちで、最近、5晩連続の睡眠制限(1晩4時間)が、ふつうの睡眠と比べて健康な若い男性の筋原線維タンパク合成を下げることが示された(Saner et al., 2020)。こうした影響の背景にあるしくみには、ホルモンの環境が関わっている可能性がある。
分子レベルで骨格筋のタンパク質代謝を調節する要因は、力学的な入力(筋収縮)、栄養の入力(食事からのタンパク質摂取)、ホルモンの入力の影響を受ける(Russell, 2010)。テストステロンとIGF-1(インスリン様成長因子1)は、筋タンパク合成を促し(Sheffield-Moore et al., 1999; Urban et al., 1995)、筋タンパク分解を活性化する遺伝子を抑える(Zhao et al., 2008)ことで、筋タンパク質の同化(体をつくる方向)を正に調節する。テストステロンは筋線維の表面で特有の核内受容体であるアンドロゲン受容体(AR)に結合し、DNAへの結合を介さずにAkt/mTOR経路を活性化する(Urban et al., 1995)。一方、IGF-1はPI3K/Akt/mTORを活性化して骨格筋のタンパク合成を直接高める(Velloso, 2008)。対照的に、コルチゾールは筋タンパク分解の主要な経路を活性化して異化を進める(Kayali et al., 1987)。実験的な証拠から、急性・慢性の睡眠不足は、ヒトの同化ホルモン(Leproult & Van Cauter, 2011; Reynolds et al., 2012)と異化ホルモン(Cedernaes et al., 2018; Dáttilo et al., 2020)の分泌パターンを変えることが示されている。これにもとづき、著者らは、一晩の断眠が筋タンパク合成を下げ、ホルモンの環境がその筋タンパク質代謝の低下のしくみの一つになりうるという仮説を立てた。
断眠が健康に与える影響についての理解は進み続けているが、重要な空白と課題がまだ残っている。たとえば、急性のしくみの変化を臨床で観察される結果に結びつけること、性差を調べることで、断眠についてより個別化された理解へ進むことなどである。本研究では、一晩の完全な断眠が、若く健康な男女において異化に傾いたホルモン環境をつくり、食後の筋タンパク合成と筋タンパク分解のマーカーを損なうかどうかを調べた。
方法
参加者
18〜35歳の若く健康な男女の学生13人が、ランダム化クロスオーバー試験への参加にインフォームド・コンセントを与えた。最近の時差のある移動(過去4週間に複数のタイムゾーンをまたぐ移動がない)、交代勤務(過去3か月に交代勤務がない)、頻繁な昼寝(週2回以上)、睡眠障害の診断のいずれかがある人は除外した。ふだんの就寝時刻(22時〜0時)と起床時刻(6時〜8時)が実験の手順とおおむね一致していること、1晩に少なくとも7時間眠っている(寝床にいる時間ではなく)と自己申告することを条件とした。朝型・夜型はMorningness-Eveningness(ME)質問票(Horne & Ostberg, 1976)で評価し、極端な朝型(スコア70超)や夜型(スコア30未満)の人は除外した。3人を除く全員が「中間型」だった。女性参加者の募集と測定の方法は、著者らのグループが以前に詳しく報告している(Knowles et al., 2019)。簡単に言えば、女性ホルモンの変動の影響を小さくするため、女性参加者はどちらの条件でも月経周期の同じ時期に測定した。月経周期は女性の筋タンパク合成(本研究の主要評価項目)に影響しないことがすでに示されているが(Miller et al., 2006)、エストロゲンとプロゲステロンの比が最も低くなるよう卵胞期は避けた。研究はディーキン大学ヒト研究倫理委員会の承認(2016-028)を受け、ヘルシンキ宣言(1964年)とその後の改訂に従って行った。参加者の身体的特性、MEスコア、自己申告のふだんの睡眠時間を表1にまとめた。MEスコア(p = .148)と自己申告の睡眠時間(p = .401)に男女差はなかった。
| 男性(7人) | 女性(6人) | |
|---|---|---|
| 年齢(歳) | 22 ± 1.8 | 20 ± 1.3 |
| 体重(kg) | 71.6 ± 11.3 | 60.1 ± 10.3* |
| 身長(cm) | 173.5 ± 9.0 | 170.5 ± 5.1 |
| BMI(kg/m²) | 22.6 ± 4.1 | 20.7 ± 3.2 |
| MEスコア | 48.0 ± 6.4 | 53.8 ± 6.6 |
| ふだんの睡眠時間(自己申告、時間) | 7.5 ± 0.6 | 7.8 ± 0.7 |
BMI:体格指数、ME:朝型・夜型スコア。*男性と有意差あり(p < .05)。
サンプルサイズの計算
本研究を計画した時点では、断眠が筋タンパク合成に与える影響を調べた研究は発表されていなかった。同化・異化の刺激(固定や運動など)が筋タンパク合成の変化に与える影響を調べた研究(Lamon et al., 2016; Paddon-Jones et al., 2006)のデータを使い、主要評価項目(FSR:筋タンパク質の分画合成速度)について検出力分析を行ったところ、13人のサンプルで第2種の過誤のリスクを最小にできることが示された(β = 0.2、α = 0.05)。主要評価項目である筋のFSRは男女で同程度であることが先行研究で示されているため(Knowles et al., 2019; West et al., 1985)、男女の両方を含めた。
試験前の手順
試験前の1週間、参加者にはふだんの睡眠習慣を保つよう指示した。参加者は利き手ではない側の手首にアクチグラフ(活動量計、Actical MiniMitter/Respironics社)をつけ、睡眠日誌を記録した。日誌はアクチグラフのデータの裏付けに使い、じっと起きている時間を誤って睡眠と判定する可能性を小さくした。
参加者は、対照試験(CON)と実験試験(DEP:断眠)の両方をランダムな順番で行った(クロスオーバー)。完全に回復できるよう、試験と試験のあいだは少なくとも4週間空けた。各試験の48時間前からは、激しい運動、アルコール、カフェインを控えるよう求めた。試験の前夜(CON)または試験当夜(DEP)には、脂質約20%・タンパク質14%・炭水化物66%の標準化した食事(エネルギー量は体重1kgあたり8.4〜8.9kcal)を出し、水は自由に飲めるようにした。
試験の手順
断眠試験(DEP)の夜は、参加者は19時に標準化した食事をとり、21時に研究室に来て、座ってできる活動(読書や映画鑑賞など)だけを行った。眠ってしまわないよう、研究スタッフが常に見守り、アクチグラフでも監視した。参加者は30時間の手順のあいだずっと、防音され、照明(211 ± 14ルクス)と温度(21 ± 2℃)が管理された施設にとどまった。断眠中は、タンパク質の少ない軽食(果物や野菜)と水を自由にとってよいことにした。インスリン濃度に差が出る可能性はあるものの、タンパク合成を活性化する量(15〜30g)のタンパク質に薬理的でない量の炭水化物を足しても、主要評価項目であるFSRに上乗せの効果はない(Glynn et al., 2013; Hamer et al., 2013; Koopman et al., 2007; Staples et al., 2011)。対照試験(CON)では、参加者は19時に標準化した食事をとり、慣れない研究室・臨床の環境で睡眠が乱れる危険を避けるため、自宅で22時から7時まで眠った。翌朝7時、あらかじめ自宅に入る許可を得ていた研究者と看護師が参加者を起こし、体を動かしたり光を浴びたりする前にすぐ静脈血を採った。そのあと参加者を研究室へ移送し、実験の手順を行った。
DEPとCONのどちらでも、参加者は7時30分に、脂質約9%(7.4 ± 4.2g)・タンパク質11%(20.3 ± 1.8g)・炭水化物80%(147 ± 7.2g)の標準化した朝食をとった。参加者を絶食させるのではなく、DEPとCONの両方で実験手順の一部として標準化した食事を出した。目的は、(i) 参加者の不快感を減らし、手順を守ってもらいやすくすること、(ii) 24時間の絶食による極端に異化的で不自然な状態ではなく、より現実的で代謝が活発な食後の状態を再現することだった。8時に、採血のため両腕の肘の静脈に18ゲージのカニューレ(細い管)を入れ、10時から手順の終わりまで、L-[ring-¹³C₆]-フェニルアラニン(Cambridge Isotope Laboratories社)をプライム(0.34 mg/kg)のあと持続点滴(0.0085 mg/kg/分)した。12時に、脂質12%(5.1 ± 1.8g)・タンパク質21%(20.6 ± 0.3g)・炭水化物67%(65.7 ± 5.6g)の標準化した昼食をとった。ゆっくり消化される普通の食品による食事は、血漿フェニルアラニン濃縮度の変動を小さくするため、食事にトレーサー(目印の同位体)を加える必要はなかった(Mamerow et al., 2014)。骨格筋のサンプルは、13時と15時に、局所麻酔(1%リドカイン)のもとで、外側広筋(太ももの外側の筋肉)の筋腹の別々の場所から、著者らが以前に報告した経皮的針生検法(Lamon et al., 2016)で採取した。筋サンプルはすぐに液体窒素で凍らせ、同位体濃縮度の測定と遺伝子発現の解析に使った。実験手順の概要を図1に示す。
図1:実験の手順。採血・筋採取・標準化した食事のタイミング。IGF-1、コルチゾール、テストステロンの濃度は7時・10時・13時・16時に、インスリン濃度は7時・11時・15時に測定した。フェニルアラニン濃縮度は10時から16時のあいだに筋組織と血液の両方で測定した。PCRは13時に採取した筋組織で行った。(原文の図1)
睡眠の測定
睡眠はアクチグラフ(Actical MiniMitter/Respironics社)で客観的に記録した。Actical(28 × 27 × 10 mm、17 g)は圧電式の全方向加速度計を使い、0.5〜3.0 Hzの範囲ですべての方向の動きを感知する。活動量計(アクチグラフィ)のデータは、睡眠を客観的・非侵襲的・間接的に評価でき、睡眠ポリグラフ検査との比較で妥当性が確かめられている(Ancoli-Israel et al., 2003)。主な評価項目は総睡眠時間と睡眠効率(総睡眠時間 ÷ 寝床にいた時間)とした。
ホルモンの測定
7時から17時まで1時間ごとに静脈血をEDTA管に採り、手で転倒混和したあと、すぐに4℃・13,000回転/分で15分間遠心した。上澄み(血漿)を分け取り、分析まで−80℃で凍結保存した。血漿のコルチゾール、テストステロン、IGF-1の濃度は、高感度の酵素免疫測定(ELISA)キット(IBL International社)を使い、メーカーの指示どおりに測った。インスリン濃度は、MILLIPLEX MAP Human Metabolic Hormone Magnetic Bead Panel(Merck KGaA社)を使い、メーカーの指示どおりに測った。
血漿の同位体濃縮度
解凍した血漿に同量の15%スルホサリチル酸(SSA)溶液を加えてタンパク質を沈殿させ、4℃・13,000回転/分で20分間遠心した。上澄み500 µLから、陽イオン交換クロマトグラフィー(Dowex AG 50W-8X、100〜200メッシュ H⁺型、Bio-Rad Laboratories社)で血中アミノ酸を抽出した。フェニルアラニンの濃縮度は、以前に報告した方法(English et al., 2016)のとおり、tert-ブチルジメチルシリル誘導体を使い、電子衝撃イオン化によるガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)で求めた。イオン336と342を観測した。
筋タンパク質の同位体濃縮度
30 mgの筋肉片から、筋肉に結合した混合タンパク質の画分と細胞内の画分を分けた。簡単に言えば、結合した筋タンパク質を過塩素酸で抽出し、6規定の塩酸で加水分解した(110℃で24時間)。分画合成速度の計算には、組織液(細胞内画分)のL-[ring-¹³C₆]-フェニルアラニン濃縮度を前駆体プールとして使った。筋肉全体のフェニルアラニンは陽イオン交換クロマトグラフィー(50W-8X、200〜400メッシュ H⁺型、Bio-Rad Laboratories社)で分離した。アミノ酸を2規定の水酸化アンモニウム8 mLで溶出し、真空で乾燥させた。筋細胞内と結合タンパク質のL-[ring-¹³C₆]-フェニルアラニン濃縮度は、tert-ブチルジメチルシリル誘導体を使い、電子衝撃イオン化によるGC-MSで求めた。以前の報告(English et al., 2016)のとおり、結合タンパク質の濃縮度にはイオン238と240、細胞内の濃縮度にはイオン336と342を観測した。混合筋タンパク質のFSR(%/時)は、前駆体-生成物モデル(Paddon-Jones et al., 2006)で、L-[ring-¹³C₆]-フェニルアラニンが直接取り込まれた量を測って計算した。
訳注:計算式は省略しています。2回の筋生検のあいだに筋タンパク質へ取り込まれた目印のフェニルアラニンの増え方を、筋細胞内の目印の平均濃度と生検の時間間隔で割り、1時間あたりの割合(%)にしたものがFSRです。
RNAの抽出と遺伝子発現の解析
13時に採取した筋生検サンプルを遺伝子発現の解析に使った。約15 mgの骨格筋サンプルから、Tri-Reagent Solution(Ambion社)でメーカーの手順どおりにRNAを抽出した。RNAはDNase I(Thermo Fisher Scientific社)で処理し、NanoDrop 1000分光光度計(Thermo Fisher Scientific社)で濃度を確認した。1,000 ngのRNAからHigh Capacity RTキット(Applied Biosystems社)で一本鎖cDNAをつくり、メーカーの手順どおりにRNase H(Thermo Fisher Scientific社)で処理した。mRNA量の測定には、AriaMxリアルタイムPCRシステム(Agilent Technologies社)でリアルタイムPCRを行った。ARNTL(BMAL1)、CRY1、PER1、IGF-1Ea、IGF-1Eb、FBXO32(atrogin-1)、TRIM63(MuRF-1)、FOXO1、FOXO3のmRNA量を、1 × SYBR Green PCR MasterMix(Applied Biosystems社)と5 ngのcDNAで測った。プライマーはすべて最終濃度300 nMで使った。プライマーの詳細は表2(原文参照)に示した。一本鎖DNA(ssDNA)はQuant-iT OliGreen ssDNA Assay Kit(Thermo Fisher Scientific社)でメーカーの指示どおりに定量した。PCRの補正には、以前に妥当性が確かめられているとおり(Lundby et al., 2005)ssDNAを使った。ssDNA濃度に群間の差はなかった(データは figshare で公開)。この補正方法は、一般的なハウスキーピング遺伝子GAPDHとも照らし合わせて確認した(データは示していない)。
表2:プライマー配列(遺伝子名・アクセッション番号・配列の一覧のため訳を省略。原文の表2)
統計解析
統計解析にはSPSS 26.0(IBM社)を使った。残差と予測値の診断プロットを確認し、分散の均一性を確かめた。ホルモン濃度は、特に断りのない限り、時間と条件(CON対DEP)を参加者内要因とする二元配置分散分析(ANOVA)で解析した。主効果が見られた場合は、Sidak検定で平均値の組を比べた。FSRとホルモン濃度については、片側の対応のあるt検定で群の平均を比べた。睡眠データと遺伝子発現データについては、両側の対応のあるt検定で群の平均を比べた。ホルモン値の曲線下面積(AUC)は台形法で計算した。t検定とANOVAのF検定、Sidak検定の有意水準はp < .05とした。データはすべて平均 ± SDで示した。
結果
睡眠
試験前の1週間では、総睡眠時間(CON:5.9 ± 0.5時間、DEP:6.1 ± 1.4時間、p = .718)にも睡眠効率(CON:78.5 ± 6.5%、DEP:79.4 ± 4.7%、p = .801)にも差はなかった。同じく、睡眠の介入の直前の夜にも、総睡眠時間(CON:6.8 ± 0.8時間、DEP:7.4 ± 0.7時間、p = .195)と睡眠効率(CON:77.3 ± 6.3%、DEP:81.0 ± 8.6%、p = .424)に差はなかった。断眠の介入中と測定日のあいだ、眠った参加者は一人もいなかった(0.0 ± 0.0時間)。
筋タンパク合成
同位体の点滴のあいだ、参加者は同位体の定常状態を保っており、血漿の濃縮度にCONとDEPの差はなかった(図2a)。筋細胞内のL-[ring-¹³C₆]-フェニルアラニン濃縮度を表3に示す。断眠は、食後の筋タンパク質の分画合成速度(FSR)を18%下げた(CON:0.072 ± 0.015%/時 対 DEP:0.059 ± 0.014%/時、p = .040)(図2b)。男性の参加者は全員、断眠条件で対照条件よりタンパク合成が数値上低くなったが、女性ではそうではなかった。
図2:一部の参加者(4人)における実験中の血漿L-[ring-¹³C₆]-フェニルアラニン濃縮度(二元配置ANOVA、平均 ± SD)(a)。対照(CON)と断眠(DEP)の条件で測った食後の混合筋タンパク質の分画合成速度(13人、片側の対応のあるt検定、*CONと有意差あり p < .05。赤い点が男性、青い点が女性)(b)。(原文の図2)
| CON | DEP | |
|---|---|---|
| 1回目の筋生検 | 0.045 ± 0.010 | 0.040 ± 0.011 |
| 2回目の筋生検 | 0.046 ± 0.008 | 0.042 ± 0.009 |
血漿テストステロン濃度
血漿テストステロン濃度には時間の主効果があった(p = .002)が、睡眠 × 時間の交互作用は統計的に有意には届かなかった(p = .063、図3a)。曲線下面積はDEP条件で24%低かった(CON:6.40 ± 5.28 AU 対 DEP:4.86 ± 3.64 AU、p = .029、図3b)。目で見て男性と女性のサブグループが分かれており、男性は全員がDEP条件でテストステロンのAUCが下がっていた(図3b)。
図3:対照(CON)と断眠(DEP)の条件での血漿テストステロン濃度(13人、二元配置ANOVA、平均 ± SD)(a)。曲線下面積(13人、片側の対応のあるt検定、*CONと有意差あり p < .05。赤い点が男性、青い点が女性)(b)。(原文の図3)
血漿コルチゾール濃度
血漿コルチゾール濃度には、睡眠 × 時間の有意な交互作用が見られた(p = 4.38 × 10⁻⁵)。睡眠の後半にコルチゾールが上がるというよく知られた現象(Vargas & Lopez-Duran, 2020)と一致して、7時(対照条件の起床時刻)の血漿コルチゾール濃度はCON条件のほうがDEP条件より有意に高かった(p = .014)。10時には両条件の血漿コルチゾールは同程度だった(p = .940)が、16時にはDEP条件のほうが有意に高くなった(p = .048)(図4a)。血漿コルチゾールの曲線下面積(10時〜16時)は、DEPのほうがCONより21%高かった(CON:186 ± 41.7 AU 対 DEP:226 ± 44.6 AU、p = .011)(図4b)。
図4:対照(CON)と断眠(DEP)の条件での血漿コルチゾール濃度(13人、二元配置ANOVA、*CONと有意差あり p < .05。##・###はCON群で7時の値と有意差あり p < .01・p < .001。平均 ± SD)(a)。10時(aの破線)から手順の終わりまでの血漿コルチゾール濃度の曲線下面積(13人、片側の対応のあるt検定、*CONと有意差あり p < .05。赤い点が男性、青い点が女性)(b)。(原文の図4)
インスリンとIGF-1の濃度
血漿IGF-1濃度は、時間でも、睡眠でも、その組み合わせでも変わらなかった(図5a)。同じく、食後の状態で測った筋肉のIGF-1 mRNAのアイソフォーム(IGF1-EaとIGF1-Eb)の発現量にも、断眠の影響はなかった(図5b、c)。血漿インスリン濃度は1日のなかで変動したが、睡眠の影響も、睡眠と時間の組み合わせの影響もなかった(図5d)。
図5:対照(CON)と断眠(DEP)の条件での血漿IGF-1濃度(二元配置ANOVA)(a)。13時に採取した筋生検でのIGF-1アイソフォームIGF1-Ea(b)とIGF1-Eb(c)のmRNA量(両側の対応のあるt検定。赤い点が男性、青い点が女性)。インスリン濃度(二元配置ANOVA)(d)。いずれも13人、平均 ± SD。(原文の図5)
遺伝子発現
食後の状態で採取した筋生検で、中心的な時計遺伝子(ARNTL、CRY1、PER1)と、筋タンパク分解のマーカー(FBXO32、MURF1、FOXO1、FOXO3)の筋肉での発現量を調べたが、断眠による変化はなかった(図6a〜g)。
図6:13時に採取した筋生検でのARNTL(a)、CRY1(b)、PER1(c)、atrogin(FBXO32)(d)、MURF1(e)、FOXO1(f)、FOXO3(g)のmRNA量(13人、両側の対応のあるt検定、平均 ± SD。赤い点が男性、青い点が女性)。(原文の図6)
考察
慢性的な睡眠不足は強い異化ストレス要因であり(Cedernaes et al., 2018; Saner et al., 2020)、代謝の不調のリスクを高め(Reutrakul & Van Cauter, 2018)、集団レベルでは筋量と筋機能の低下と結びついている(Lucassen et al., 2017; Piovezan et al., 2015)。本研究では、一晩の断眠だけで同化抵抗性(体をつくる刺激への反応が鈍くなること)が起こり、食後の骨格筋タンパク合成速度が18%下がることを示した。この低下には、血漿コルチゾールの急性で異化寄りの上昇と、性別によって異なる血漿テストステロンの低下がともなっていた。本研究は、急性の断眠が、骨格筋の入れ替わりを調節する重要な要素である筋タンパク合成を鈍らせることを示した初めての研究である。5晩の睡眠制限のあとに筋タンパク合成が下がったという先行の結果(Saner et al., 2020)に加わるものであり、急性または慢性の睡眠不足のあとに同化が抑えられるしくみについて手がかりを与える。
急性の断眠は筋タンパク合成を下げる
一晩の断眠は、健康な若い成人の食後の骨格筋タンパク合成を有意に下げた。げっ歯類では、完全な断眠が筋量(Dattilo et al., 2012)、筋線維の断面積(de Sa et al., 2016)、タンパク合成経路のマーカーを減らすことが知られている。睡眠不足がヒトの筋タンパク合成に与える影響を調べた研究は、これまで一つしかない。Sanerらは慢性的な睡眠制限モデルを使い、5晩連続の睡眠制限が健康な若い男性の筋タンパク合成速度を下げたことを最近報告した(Saner et al., 2020)。使った安定同位体(フェニルアラニン対重水)、研究デザイン(急性のクロスオーバー対慢性の並行群)、対象(男女対男性のみ)が違うにもかかわらず、本研究の結果はSanerらの結果を支持する。慢性的な断眠の期間にともなう体の悪い変化は、タンパク質を含む食事や身体活動に対する同化の反応が鈍った状態が積み重なり、代謝が異化へ傾いた結果である可能性が高い。Sanerらの論文の結果と意味については、著者らのグループが別に論じている(Knowles, 2020)。
本研究で新たに得られた探索的な結果として、断眠への反応に性差がある可能性が浮かび上がった。性別を正式に比べられるだけの人数は想定していなかったが、男性の参加者は全員、断眠条件で対照条件よりタンパク合成が数値上低くなった一方、女性ではそうではなかった。一部の女性参加者で見られた筋タンパク合成の逆説的な上昇に合う個人の特徴や行動は見つけられなかったため、このデータは、性別に特有の、より広い生理的な反応を反映している可能性があり、さらに焦点を絞った検討が必要である。
実験の厳密さと参加者の快適さを両立し、データを臨床に生かしやすくするため、どちらの睡眠試験でも、参加者は1回目の筋生検の前に標準化した食事をとった。食事のタンパク質は筋タンパク合成を強く活性化するため、本研究のタンパク合成速度が、絶食した参加者で得られる典型的なデータ(Kumar et al., 2009)よりやや高かった理由は、これで説明できるかもしれない。参加者を食後の状態で調べたことで、急性の断眠は同化抵抗性を引き起こし、食事のタンパク質がふつう引き起こす同化の刺激に筋肉が反応する力を下げる、と結論づけることができた。この結果は、交代勤務者、子育て中の親、学生、高齢者など、急性・慢性の睡眠不足のリスクが高い人々の、筋骨格と代謝の健康に広く関わる可能性がある。栄養や、タンパク合成を刺激する運動(Saner et al., 2020)を重視した今後の研究と臨床での介入が望まれる。これらは、睡眠不足の人々で筋量と筋機能を守る、実用的で効果的な方法になりうる。
急性の断眠は同化に不利なホルモン環境をつくる
一晩の断眠のあと、テストステロンのAUCは24%低下した。完全な断眠が日中のテストステロン分泌パターンをどう変えるかを示す証拠は限られている。男性では、血漿テストステロンは1日のなかで変動し、睡眠中に上がって起きているあいだに徐々に下がり(Axelsson et al., 2005; Touitou et al., 1990)、概日リズム(体内時計)の影響はわずかである(Axelsson et al., 2005)。テストステロンが上がるには、逆説睡眠(レム睡眠)の機会を含む、少なくとも3時間のふつうの睡眠が必要である(Luboshitzky et al., 2001)。本研究の結果と一致して、健康な若い男性を対象にした以前の研究では、一晩の急性の断眠は24時間のテストステロンAUCを変えなかったものの、日中には本研究と似たパターンが見られた(Dáttilo et al., 2020)。
男性では、テストステロンは短期(5日)(Sheffield-Moore et al., 1999)でも長期(4週間)(Urban et al., 1995)でも、筋タンパク合成を強く調節する。しかし、テストステロンに急性にさらされても、5時間のあいだの空腹時の筋タンパク合成や分解の速度は変わらない(Church et al., 2019)。一時的にテストステロンが低いことが、空腹時や食後の筋タンパク合成速度に悪影響を与えうるかはわかっておらず、実験で確かめるのは難しい。とはいえ、断眠中にテストステロン分泌が抑えられることはすでに示されており(Luboshitzky et al., 2001)、著者らや他の研究者(Dáttilo et al., 2020)は、日中にもう一度、主にトレーサー点滴の期間より前に、テストステロン分泌が低い時間帯があることを観察している。この一時的な反応が同化抵抗性に関わるかどうかは、実験で確かめる必要がある。
最後に、テストステロンは主要な男性ホルモンだが女性にもあり、その濃度は男性の典型的な値の10分の1ほどである(Vingren et al., 2010)。人数の制約から統計的には検定していないが、本研究では性別に特有のパターンが目で見て確認できた。断眠がテストステロン値に与える悪影響は、男性で特にはっきりしている、あるいは男性に特有であるように見えた。この違いが、タンパク合成の結果に差があるかもしれないことの原因かどうかは本研究では答えられず、性別ごとのさらなる研究が必要である。
急性の断眠は異化寄りのホルモン環境をつくるが、遺伝子発現には差がない
男性で行われた先行研究と一致して、一晩の急性の断眠のあとには、起床時のコルチゾール反応は見られなかった(Vargas & Lopez-Duran, 2020)。この鈍った起床時のコルチゾール反応には、起床時の反応を計算に入れない場合、日中を通して慢性的に高いコルチゾール分泌がともなっていた(Cedernaes et al., 2018; Dáttilo et al., 2020)。本研究の結果はこれらの観察と一致するが、参加者が夜間にカロリーをとったことは交絡要因(結果をゆがめうる別の要因)になりうると認める必要がある。夜間のブドウ糖点滴がコルチゾール値を下げることが以前の研究で示されている(Benedict et al., 2009)。ただし本研究では、コルチゾールのAUCは、栄養とエネルギーの摂取をそろえたあとの10時以降で計算した。さらに事後解析では、対照群ではコルチゾールが1日を通して徐々に有意に下がったのに対し、断眠群ではどの時点でも差が見られず、概日リズムのずれの可能性が示された。コルチゾールには異化の性質がある。ラットではコルチコステロンが筋タンパク合成を下げ、筋原線維タンパク質の分解を増やした(Kayali et al., 1987)。対照的に、ヒトでは急性の高コルチゾール状態は筋の分画合成速度には影響せず、筋タンパク質の正味バランスを鈍らせた(Paddon-Jones et al., 2003)。これは、コルチゾールが筋タンパク合成を鈍らせるよりも、筋タンパク分解を優先的に増やすことを示唆している。実際、完全な断眠はヒトの骨格筋で異化の遺伝子パターンを引き起こしうる(Cedernaes et al., 2018)が、これは筋タンパク分解の増加を反映しているのかもしれない。しかし本研究の急性モデルでは、タンパク分解に関わる遺伝子FOXO1とFOXO3の筋肉での発現量にも、筋特有の萎縮遺伝子Atrogin-1(FBXO32)とMURF1の発現量にも、差は見られなかった。これは、本研究の筋生検が遅い時刻に採取されたこと(先行研究の7時30分に対して本研究は13時)に加え、採取時に参加者が食後の状態だったことでも説明できるかもしれない。実際、混合食をとると、絶食時に比べてユビキチンを介したタンパク分解が弱まる(Carbone et al., 2013)。急性の研究は本質的に慢性的な過程の「スナップショット」を示すにすぎないことに注意すべきだが、食後のモデルを選んだことには、同化の流れがより大きい時間帯をよく反映できるという利点がある。睡眠不足が筋タンパク分解に影響することを支持するものとして、睡眠不足による高コルチゾール状態がサルコペニアの発症に関わっているかもしれず(Piovezan et al., 2015)、その影響には性差があるかもしれない(Buchmann et al., 2016)と最近指摘した研究者もいる。ただし、因果関係を確かめるにはさらなる研究が必要である。
他の研究(Cedernaes et al., 2015)とは違い、本研究では一晩の完全な断眠のあとに中心的な時計遺伝子の筋肉での発現量は下がらなかった。筋サンプルを採取した時刻が異なるため、この時間のあいだに筋肉の概日リズムが元に戻った可能性が考えられる。また、食べ物の摂取は骨格筋を含む哺乳類の末梢組織にとって「時刻合わせの合図(ツァイトゲーバー)」として働きうるため(Challet, 2019)、夜間のカロリー摂取が交絡要因になりうることも認める必要がある。ただし、時計遺伝子の発現の差が、生理的に意味のある変化を反映しているとは限らない。そのため、タンパク質の発現量のような、より機能的な指標を比べる必要があるが、本研究では組織の量が足りずできなかった。
強みと限界
同じ理由で、筋タンパク合成を調節する分子のタンパク質発現量も評価できなかった。手順を守ってもらいやすく、快適に、途中でやめないようにするため、著者らはヒト研究倫理委員会から、1回目の生検の6時間前である7時の時点でカロリー摂取をそろえる前に、タンパク質の少ない軽食(果物や野菜)と水を自由にとることを参加者に許可するよう求められた。この方法により、すべての時点で両条件の血漿インスリン値を同程度にすることができた。既存の文献とは一致しているものの、本研究の結果は、炭水化物の摂取が血漿ホルモン濃度に影響した可能性をふまえて解釈すべきであり、今後の研究では夜間のブドウ糖摂取をなくすか、そろえることを検討すべきである。自宅の環境を使ったことは妥協の一つで、慣れるための期間がいらないことは本研究の強みだが、夜間の採血はできなくなった。自宅の睡眠環境には慣れていたはずだが、参加者はどちらの試験の前の週も軽い睡眠制限の状態だった。ただし総睡眠時間は、示した睡眠・覚醒時刻の参加基準の範囲内だった。試験前夜に記録された睡眠は、自己申告のふだんの睡眠時間である7時間に近かった。この軽い睡眠制限の状態が結果に影響したかどうかはわからない。今後の研究では、研究室での睡眠試験と、睡眠の質を分析できるゴールドスタンダードの睡眠ポリグラフ検査を取り入れることも考えられる。参加者の負担は増えるが、睡眠の質の指標と、骨格筋タンパク合成やホルモン環境などの生理的な結果との関係を明らかにできるだろう。
結論として、睡眠の量と質が悪いことは、さまざまな代謝への影響と結びついている。本研究は、完全な断眠が若い男女の食後の筋タンパク合成を下げ、同化抵抗性を引き起こすことを示した。断眠はまた異化寄りの環境もつくり、この過程の背景にありうるしくみに手がかりを与えた。ただし、この臨床試験を計画する際、著者らは性差に焦点を当てておらず、性差を検出できるだけの人数も想定していなかった。したがって、本研究で見られた性差の可能性は確定的なものではなく、男女それぞれの集団で、睡眠不足と骨格筋の健康の低下とのつながりをよりよく調べるための専用の研究が求められる。
利益相反・著者の貢献(原文より)
利益相反:著者らは開示すべき利益相反はないとしている。
著者の貢献:SL、GEV、BAが研究を計画した。SL、AM、OK、DC、SEA、AGがデータを収集した。SL、EAL、OK、GEV、SEA、DPJがデータを処理・分析した。SLが統計解析を行い、原稿の下書きを書いた。SLとBAがプロジェクトを監督した。著者全員が原稿の下書きにコメントし、編集した。
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出典・ライセンス
Séverine Lamon, Aimee Morabito, Emily Arentson-Lantz, Olivia Knowles, Grace Elizabeth Vincent, Dominique Condo, Sarah Elizabeth Alexander, Andrew Garnham, Douglas Paddon-Jones, Brad Aisbett. The effect of acute sleep deprivation on skeletal muscle protein synthesis and the hormonal environment. Physiol Rep 2021;9(1):e14660. 公開日:2021年1月5日. DOI: 10.14814/phy2.14660
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